南アフリカの会社制度、税制、会計制度、および進出手続き
南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)は、豊富な資源と発展したインフラを持ち、アフリカ大陸で最も経済的に発展している国の一つです。日本企業にとっても、事業展開の可能性が高い市場とされています。また、充実した経済インフラを基に、アフリカ大陸進出の拠点となる国でもあります。
本記事では、南アフリカの会社制度、税制、会計制度、そして日本企業が進出する際に必要な手続きについてその概要を記載します。
1 南アフリカの会社制度概要
南アフリカの会社制度は、2011年に施行された「新会社法(Companies Act, No. 71 of 2008)」によって規定されています。この法律は、企業の透明性と説明責任を高め、国内外の投資家にとってより魅力的なビジネス環境を提供することを目的としています。
南アフリカで事業を行う企業は、以下の会社形態のいずれかを選択する必要があります。
1.1 会社の種類
南アフリカには主に以下の会社形態があります:
1.1.1 公開会社(Public Company / Ltd)
公開会社は、株式を公開募集することができる会社形態です。通常、証券取引所に上場しており、一般投資家から資金を調達することが可能です。最低3名の取締役が必要で、株主は有限責任です。
1.1.2 非公開会社(Private Company / Pty Ltd)
非公開会社は、株式の譲渡を制限された現地法人です。最低1名の取締役が必要です。非公開会社は、設立手続きや管理が比較的容易であるため、多くの外国企業がこの形態を選択します。1.1.4の外国会社と同様に、日系企業の進出形態として一般的な方法の一つになります。
1.1.3 個人責任会社(Personal Liability Company / Inc.)
個人責任会社は、主に専門職(弁護士、会計士、医師など)のパートナーシップに用いられる会社形態です。取締役は、会社の債務や負債に対して連帯責任を負います。この形態は、企業が業務上のリスクを共有する必要がある場合に選ばれます。
1.1.4 外国会社(External Company)
外国会社は、南アフリカ国外で設立された会社が南アフリカで事業を行う際に適用されます。外国企業は支店や駐在員事務所として活動することができ、南アフリカの法律に基づいて登記する必要があります。現地法人を設立しないで活動できるため、進出コストが低いことが特徴です。1.1.2の非公開会社と同様に、日系企業の進出形態として一般的な方法の一つになります。
1.1.5 非営利会社(Non-Profit Company / NPC)
非営利会社は、社会的、教育的、文化的、または共同体の利益を目的として設立される会社です。利益を配当として分配することはできません。この形態は、公益法人や慈善団体に適しています。
1.2 設立手続きの詳細
南アフリカで会社を設立するためには、以下の手続きが必要です。
1.2.1 会社名の予約(Name Reservation)
設立する会社の名前をCIPC(企業知的所有権委員会)に予約申請します。申請者は4つまでの希望する社名を提出することができ、CIPCはこれらの名前がすでに登録されていないかを確認します。
1.2.2 設立登記(Incorporation)
設立登記を行うためには、以下の書類をCIPCに提出します:
-
-
- 設立通知書(Notice of Incorporation, Form CoR14.1): 会社の基本情報を記載します。
- 定款(Memorandum of Incorporation, MOI, Form CoR15.1A/B): 会社の目的や内部ルールを定めた書類です。
- 取締役の詳細(Initial Directors of the Company, Form CoR14.1A): 最初の取締役に関する情報を提供します。
-
1.2.3 銀行口座の開設(Opening a Bank Account)
会社設立後、法人の銀行口座を開設します。これには設立証明書や取締役の身分証明書、会社の定款などが必要です。なお、法人口座の開設には比較的時間がかかる傾向にあります。
1.2.4 南アフリカ歳入庁(SARS)への届出
法人税、付加価値税(VAT)、従業員の給与にかかる所得税(PAYE)などの登録を行います。
1.2.5 労働省への届出(Registration with the Department of Labour)
失業保険基金(UIF)や労働災害補償(COIDA)への登録も必要となります。
2 南アフリカの税制と会計制度
南アフリカの税制は、歳入庁(SARS)が管理し、法人税、付加価値税(VAT)、個人所得税などが課されています。会計制度は国際財務報告基準(IFRS)に準拠しており、すべての企業に適用されます。
2.1 法人税(Corporate Income Tax)
2.1.1 法人税の基本
法人税率は2023年3月31日、またはそれ以降に終了する事業年度から基本税率は27%。それ以前の事業年度は28%となります。南アフリカ国内で事業を行う法人には、全ての課税所得に対してこの税率が適用されます。
小規模企業や零細企業に対しては特別な税制優遇があります。
2.1.2 小規模企業と零細企業の税制優遇
小規模企業(年間売上高が2,000万ランド未満)や零細企業(年間売上高が100万ランド未満)には、累進課税制度が適用されます。
例えば、小規模企業の場合、95,750ランド以下の課税所得には税金が課されず、550,000ランド以上の所得には27%の税率が適用されます。零細企業の場合は、課税売上高に応じて最大3%の税率が課されます。
2.1.3 利益送金に関する課税
南アフリカにある外国企業の支店(External Company)が利益を国外に送金する場合、通常は法人税のみが課され、追加の源泉税はかかりません。ただし、配当、利子、ロイヤルティーを国外に送金する際には、源泉税が適用される場合があります。
2.2 源泉税(Withholding Tax)
2.2.1 配当への課税
南アフリカ国内で発生する配当金に対しては、20%の源泉税が課されます。ただし、日本の居住者に対して支払われる配当で、南アフリカの企業の株式を25%以上保有している場合、源泉税は5%に軽減されます。
2.2.2 利息とロイヤルティーへの課税
利息およびロイヤルティーの支払いについては、15%の源泉税が適用されます。南アフリカと日本の間には二重課税防止条約が締結されており、適用される源泉税率が軽減される場合があります。
2.3 付加価値税(Value Added Tax, VAT)
2.3.1 VATの基本構造
南アフリカの付加価値税率は標準で15%です。国内で販売されるほとんどの商品やサービスに対して適用されます。ただし、一部の食品や輸出取引などにはゼロ税率が適用され、特定の金融サービス、教育サービス、住宅賃貸などは非課税となります。
2.3.2 VATの登録義務
年間売上高が100万ランドを超える場合、ベンダーの登録が義務付けられます。売上高が5万ランドを超える場合は任意でベンダーとして登録できます。
2.3.3 VATの申告と納税
VATは通常、毎月または2か月ごとに申告します。
2.4 個人所得税(Personal Income Tax)
2.4.1 累進課税制度
南アフリカの個人所得税は累進課税制を採用しており、所得が多いほど高い税率が適用されます。2023年度の税率は18%から45%(年間所得が1,817,000ランド超)まで設定されています。
2.4.2 控除項目
個人所得税には、医療費、退職金拠出、教育費などの控除項目があります。
2.4.3 非居住者に対する課税
南アフリカ非居住者は、南アフリカ国内で得た所得に対してのみ課税されます。
2.5 会計基準(Accounting Standards)
2.5.1 IFRSの適用
南アフリカでは、すべての上場企業および多くの非上場企業が国際財務報告基準(IFRS)を適用しています。
2.5.2 中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)
中小企業は、IFRSよりも簡素化された「IFRS for SMEs」を適用できます。
2.5.3 会計監査
南アフリカでは、公開会社および一部の大規模な非公開会社に対して会計監査が義務付けられています。
多くの日系企業が該当する非公開会社の場合、該当の会計年度においてPublic Interest Scoreが350点を上回る点数、または少なくても100点以上、350点以下の点数で、年度財務諸表が企業内で作成されている場合は法定監査が必要になります。
また、企業が自主的に監査を受けることを選択している場合や会社のMemorandum of Incorporation(MOI)が監査を要求している場合、他の法律、規則または会社の契約相手が契約で監査を要求している場合も法定監査の対象になります。
監査対象とならないすべての会社は、財務諸表の独立審査(Independently review)対象となります。ただし、株主と取締役が同一人物の場合でかつ、年次財務諸表が企業内で作成されていない場合は監査、独立審査の対象となる必要はなく、また規定もされていません。
なお、外国会社(External Company)は原則として法定監査またはIndependent reviewの対象ではありません。
2.5.4 Public Interest Score
-
-
- 会計年度中の平均従業員数の一人当たりに対して1点
- 会計年度末における第3者からの負債額1百万ランド毎(またはその一部)に対して1点
- 会計年度中における売上1百万ランド毎(またはその一部)に対して1点
- 会計年度末において企業として把握している、以下に該当する個別の団体に対して1点:
-
3 南アフリカ進出手続き
南アフリカに進出するための手続きは、設立形態や事業内容によって異なります。以下は一般的な進出手続きの概要です。
3.1 設立形態の詳細な選択ガイド
3.1.1 子会社設立(Subsidiary)
現地法人を設立することで、親会社の債務リスクを軽減できますが、設立と運営にコストがかかります。南アフリカでのビジネス活動を本格的に展開する場合には、現地法人を設立するのが一般的です。これにより、現地の法律に完全に従い、ビジネス活動を行うことができます。
3.1.2 支店開設(Branch)
支店を開設する場合、設立コストが抑えられ、南アフリカの税制上の損失が親会社に組み込まれるため節税効果が期待できます。ただし、支店は親会社の一部とみなされるため、親会社が現地法に従う必要があります。特に、現地の会計基準や税務申告義務に従うことが求められます。
3.1.3 駐在員事務所(Representative Office)
駐在員事務所は主に市場調査などの補助的活動に限られ、法人所得税の対象外となります。営業活動や収益活動を行うことが禁止されているため、南アフリカ市場の調査や試験的な進出に適しています。
3.2 必要書類の準備
3.2.1 非公開会社の設立
非公開会社の設立には、以下の書類が必要です:
-
-
- 定款(Form CoR15.1AまたはForm CoR15.1B): 会社の基本事項や運営方針を記載します。
- 設立通知書(Form CoR14.1): 会社の設立をCIPCに通知するための書類です。
- 取締役の身分証明書: パスポートやIDカードのコピーが必要です。
-
3.2.2 外国会社の支店、駐在員事務所
外国会社として南アフリカに進出する場合、以下の書類が必要です:
-
-
- 外国会社本社の定款の認証コピー: 本社の基本情報を示す定款の認証コピーです。
- 外国会社本社の設立証明書の認証コピー: 本社が合法的に設立されたことを示す書類です。
- 外国会社本社の直近の登記証明の認証コピー: 本社が現在も運営中であることを示す最新の登記証明書です。
-
3.3 銀行口座開設と税務登録
3.3.1 銀行口座の開設
南アフリカでの事業運営には、現地銀行での法人名義の銀行口座が必要です。銀行口座を開設する際には、会社の設立証明書、定款、取締役の身分証明書などが必要となります。
3.3.2 SARSへの税務登録
設立後、南アフリカ歳入庁(SARS)に法人税、VAT、従業員の給与にかかる所得税(PAYE)などの税務登録を行います。
4 南アフリカの経済環境
南アフリカは、豊富な天然資源、発展した金融市場、堅牢なインフラを持つ一方で、経済成長率の低迷や高い失業率などの課題にも直面しています。以下では、南アフリカの経済環境について記載します。
4.1 経済成長の現状と見通し
4.1.1 経済成長率の推移
南アフリカの経済成長率は、2015年以降1〜2%程度と低迷しています。これは、エネルギー供給の問題、政情不安、そしてコロナ禍の影響など、さまざまな要因によるものです。特に鉱業、製造業、建設業などの主要産業が低迷していることが大きな要因です。
4.1.2 今後の成長予測
南アフリカ政府は、経済成長の回復と失業率の低減を最重要課題としています。今後の成長戦略として、再生可能エネルギーへの投資、製造業の振興、観光産業の育成が挙げられています。これにより、徐々にではありますが、経済成長率の改善が期待されています。
4.2 主要産業と投資機会
4.2.1 鉱業
南アフリカは、金やダイヤモンド、プラチナなどの鉱物資源が豊富で、鉱業は国の経済にとって重要な役割を果たしています。特にプラチナやクロムの埋蔵量は世界有数であり、鉱業への投資機会は依然として大きいです。
4.2.2 自動車産業
南アフリカは、自動車産業も発展しており、多くの国際的な自動車メーカーが製造拠点を設置しています。自動車部品の製造や輸出も盛んであり、今後の成長が期待される産業の一つです。
4.2.3 金融サービス
南アフリカの金融市場はアフリカ大陸で最も発展しており、ヨハネスブルグ証券取引所(JSE)は、アフリカ最大の証券取引所です。銀行、保険、投資サービスなど、多岐にわたる金融サービスが提供されています。
4.3 ビジネスリスクと対策
4.3.1 政治的リスク
南アフリカの政治情勢は、アフリカ大陸の他国と比較しても安定していますが、汚職や政情不安が経済に影響を与えることがあります。特に、土地改革問題や黒人経済力強化政策(BEE)の進展に関しては、政治的なリスクを引き起こす可能性があります。
4.3.2 経済リスク
高い失業率、インフレーションの上昇、経済成長の低迷などが主な経済リスクです。これらのリスクを軽減するためには、政府の経済政策や市場の動向を注意深く監視し、適切な事業計画を策定することが重要です。
4.3.3 労働問題
労働争議やストライキも南アフリカでは頻繁に発生します。特に鉱業や建設業などの労働集約型産業では、労働組合の影響が大きいため、労使関係の調整が重要です。
5 投資環境
南アフリカは、アフリカ大陸最大の経済規模を誇り、外国投資に対しても積極的な政策を取っています。特に、インフラ開発や製造業、鉱業、観光業など、多くの分野で投資機会が存在します。
5.1 南アフリカの投資政策とインセンティブ
5.1.1 特別経済区(Special Economic Zones, SEZs)
南アフリカ政府は、特定の地域を特別経済区(SEZ)として指定し、税制優遇やインフラ支援などのインセンティブを提供しています。これにより、外国企業は事業コストを抑えつつ、事業を展開することが可能です。
5.1.2 投資促進プログラム
南アフリカ投資促進機構(InvestSA)は、外国企業の投資を支援するためのプログラムを提供しています。これには、投資相談、許認可取得のサポート、現地パートナーの紹介などが含まれます。
5.1.3 政府の支援策
南アフリカ政府は、特定の産業(製造業、農業、観光業など)に対して特別な支援策を講じています。これには、融資制度、助成金、税制優遇措置などが含まれます。
5.2 外資規制と為替管理
5.2.1 外資規制の内容
南アフリカでは、外国企業に対する直接的な規制は少ないものの、特定の産業(鉱業、農業など)においては外国資本の比率が制限される場合があります。また、土地所有に関しても、外国人が農地を取得することに制限が設けられています。
5.2.2 南アフリカ準備銀行(SARB)による為替管理
南アフリカ準備銀行(SARB)は、外国為替管理を行っており、外国企業が資金を移動する際には、一定の条件を満たす必要があります。特に、利益の国外送金や資本の移動に関しては、SARBの承認が必要となることがあります。
5.3 労働法制
5.3.1 労働契約の締結と労働条件
南アフリカでは、労働契約は書面で締結することが求められ、労働時間、賃金、休日、解雇規定などの条件が明確に記載されている必要があります。最低賃金の設定もあり、業種ごとに異なる最低賃金が適用されます。
5.3.2 労働争議と解決手続き
南アフリカでは、労働争議が発生した場合、まず労使間での交渉が求められます。それでも解決しない場合は、労働裁判所での調停や裁判に進むことになります。労働法の遵守と労使関係の適切な管理が重要です。